住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。 今回は、2019年の金利動向を振り返り、2020年の展望を解説していただきます。
2019年は【フラット35】の金利が史上最低金利(団信込み)を記録した年でした。元号は平成から令和へ改元、消費税は8%から10%へ増税など、多くの変化があった年でしたが、我々の生活レベルでの感覚と金融マーケットの金利動向は必ずしも一致しないというのが難しいところです。
今日は、2019年の金利動向を振り返り、今年一年どんなことがあったか? 【フラット35】の金利にどう影響したのか? を確認したいと思います。そうすれば、自ずと2020年の【フラット35】金利に影響を与える事象が見えてくるのです。では始めましょう。
2019年の長期金利と【フラット35】金利を振り返る
こちらは2019年の長期金利と【フラット35】(買取型21年~35年で団信込み)の金利推移を並べたものです。
一番に目に付くのが2019年8月から9月にかけての長期金利の大幅下落です。それによって9月と10月の【フラット35】(買取型21年~35年で団信込み)金利は1.11%となり、【フラット35】史上の最低金利を記録しました。
そして、10月から12月にかけて長期金利は上昇し、それに伴って【フラット35】金利も上がってきており、2019年上半期の水準まで戻っています。
2019年の長期金利の大幅低下は5月から6月にかけてと7月から8月にかけての2段階で発生しました。その時に何があったのか? そして10月から上昇している原因は何か? を振り返ってみたいと思います。
米中貿易問題で2019年5月から6月にかけて長期金利が下がった
2019年に入る以前から既に世界的な景気の減速が意識されていたのですが、それに追い打ちをかけたのが米中貿易問題です。
これは、ゴールデンウィーク明けにトランプ大統領が中国からの輸入製品への関税を引き上げると発言し、予告通りに2000億ドル分の中国製品の関税を10%から25%に引き上げ、これに対して中国が報復措置で対抗したことに端を発する関税合戦です。
米中2つの大国間の貿易摩擦によって、もともと減速気味であった世界経済の懸念が広がり、世界的に長期金利が下がっていったのです。
米FRBが10年半ぶりの利下げで7月からさらに長期金利が下がった
そして、2019年7月31日に米FRBは景気減速に備えるため政策金利を0.25%引き下げ、さらに9月、10月に0.25%ずつ下げていきました。
米国の政策金利の利下げは2008年末のリーマンショック以来10年半ぶりということで大きなニュースとなり、投資家は一斉にリスクオフに動きました。つまり、株式などのリスク資産を売って債券などの安全資産を買ったのです。
こうして債券価格が上がり、利回りは下がるということで長期金利はさらに低下しました。【フラット35】が市場最低金利を記録したのはこの頃です。
10月~米中貿易協議の進展期待によって長期金利が上昇
長期金利が大きく下がった直接の原因は米中貿易摩擦です。10月からは米中間の協議が進み解決の糸口が見えてきたのでは? という市場の期待から徐々に上がってきています。ただ、これは確実な話ではなく、あくまで期待なのですよね。
9月の後半から徐々に上がってきているのですが、長期金利の折れ線グラフはそれ以前よりも明らかにギザギザしています。これは市場が貿易協議の行方に一喜一憂して、上がったり下がったりしていて、とても不安定であることの表れです。
消費増税でも金利が上がったのはなぜ?
10月といえば消費増税があったタイミングでもありますね。その直後から消費が落ち込んでいるにもかかわらず、長期金利は上がっているのはなぜでしょうか?
消費が落ち込むということは、つまり景気が後退しているということであり、わたしたちの収入が増える見込みがなくなるということです。収入が増えないのに住宅ローンの金利が上がってしまうと、それだけ家計を圧迫してしまうので家を購入する人にとっては嬉しくない状態なのです。
それでも金利が下がらない理由は、消費増税によって消費が落ち込むことは前から分かっていたことであり、既にその前から投資家の行動に織り込まれていたということなのです。確かに、もともと低金利です。
そして投資家たちにとって、目下の判断材料となっているのは、米中貿易協議の行方なのですね。ほとんどこれだけと言っても過言ではありません。
2020年の長期金利と【フラット35】金利の鍵は海外投資家の動向
このように2019年の日本の長期金利はトランプ大統領によって、振り回されているようなところがあります。日本だけではなく世界中がそうなのですが。
加えて、最近は日本国債の海外保有率が上がってきていることにも注目すべきでしょう。年々海外投資家の行動が国債価格(利回り)に及ぼす影響が大きくなっています。
日本国債の利回りは既にマイナスになって久しいです。これは基本的な話ですが、利回りがマイナスだと満期まで保有するという前提で購入することが出来ません。なぜなら満期まで持っていたら損することが決まっているからです。満期まで国債を保有するのは主に国内の投資家でしたが、このように満期まで保有する投資家が購入できない状況になっているのです。
満期まで保有する目的で購入する投資家が保有している国債は、次々と満期が来て償還されていきます。そしてマイナス金利になってから新たに発行される国債を購入しているのは、短期で売買するデイトレーダーばかりなのです。
リスクが上がったときに一時的にリスク資産を売却するのですが、現金で持っていてもしょうがないので一時的に国債を買うというような保有ポリシーです。つまり、時間の経過とともに、どんどん国債価格の振れ幅は大きくなっていくのですね。債券価格の振れ幅が大きくなるということは、利回り(長期金利)の振れ幅も大きくなることを意味します。
主に短期で日本国債を売り買いするのは海外投資家ですから、彼らの動向が長期金利に影響する割合が増えていくでしょう。2020年の前半までは特に米中貿易協議の行方が日本の長期金利に影響し、【フラット35】金利に影響していきます。
東京オリンピックの後に国内の景気が後退して長期金利が下がるのでは?という人がいますが、長期金利や【フラット35】の金利に影響することはないと思います。
まとめ
【フラット35】の資金は住宅金融支援機構がマーケットの投資家に機構債を販売して調達してきます。投資家から十分な資金を集めるには、その時点の金融マーケットの金利水準を反映した利回りの条件で販売する必要があります。
マーケットの金利動向は、普通に生活しているわたし達の感覚と同じとは限らず、取引に参加をする投資家の集団的な行動で決まります。投資家の行動によって決まるとはいっても、彼ら一人ひとりにとって、その予測は極めて困難です。
加えて【フラット35】の金利は住宅の引き渡し日の属する月の金利が適用されますから、金利が低いときに借りたいと思ってもできません。引き渡し月まで待たなければなりませんので、実に歯がゆいですよね。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません
執筆者:千日 太郎
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