Monday, May 25, 2020

コラム:大詰めの欧州「復興基金」構想、財政一元化は進むのか=井上哲也氏 - ロイター (Reuters.co.jp)

[東京 25日] - 新型コロナウイルスに対する経済対策の柱として議論されてきた欧州の「復興基金」構想は、5月27日の欧州委員会で最終案が提示され、欧州連合(EU)の首脳会合(欧州理事会)で大詰めを迎える。

新型コロナウイルスに対する経済対策の柱として議論されてきた欧州の「復興基金」構想は、5月27日の欧州委員会で最終案が提示され、欧州連合(EU)の首脳会合(欧州理事会)で大詰めを迎える。写真はベルギーのブリュッセルにあるEU本部。2019年12月撮影(2020年 ロイター/Yves Herman)

この構想はもともと、最も深刻な影響を受けたイタリアやスペインを中心に大規模な経済対策が必要となる中で、金融市場で財政危機と経済危機がスパイラル的に悪化する懸念が高まったことへの対応として、EUが「救済基金」を設立して一元的な支援を行うべきとの主張に基づく。欧州理事会の4月会合では圧倒的多数が支持する状況になった。

慎重論を示したドイツやオランダなどの少数派も、欧州が団結して対応すべきことには賛同したが、大規模な基金の設立が財政の一体化をなし崩し的に進める意味合いを持つことに強い懸念を示した。

財政の一体化が最終的に望ましいゴールであったとしても、一方的な財政資金の移転が生ずる事態を防ぐには、域内国による財政規律の強化が不可欠であるだけに、拙速な実現は望ましくないとするドイツなどの考え方には説得力がある。

ところが、少数だが強力な発言力を持つこれらの国々の反発によって「救済基金」の議論が停滞する間に、外部環境は大きく変化した。

欧州中央銀行(ECB)が新たに大規模な国債買入れ(PEPP)を4月から本格化したほか、既存の買い入れと併せて特定国の国債を集中的に買い入れた。さらにユーロ圏の財務相会合(ユーログループ)で欧州安定機構(ESM)による新たな資金供与に関する議論も進展し、追加負担の軽減と使途の柔軟性に配慮した新たなファシリティ(PCF)が5月中旬から利用可能となった。

金融市場も安定を回復し、イタリア国債やスペイン国債のドイツ国債に対する利回り格差も3月下旬のピークに比べて顕著に縮小した。さらに足元では、イタリア政府が総額220億ユーロもの国債を市場で成功裏に発行した。この間に欧州理事会における基金の通称が「救済基金」から「復興基金」へ変化したことは、外部環境とそれを踏まえた議論の変化を象徴している。

<「復興基金」の意義とあり方>

このため、「復興基金」構想は既に時宜を失したとの見方もあろうが、筆者は依然として大きな意味合いがあると考える。

第1に、失業や企業破綻の防止だけでなく経済活動の回復促進においても、各国の財政事情によって政策対応の強度にばらつきが生ずることは望ましくない。EU、中でもユーロ圏では域内諸国が単一市場の下で密接な相互依存関係にあるだけに、一部の経済回復の遅れは幅広い影響を及ぼしうる。

第2に、ECBの国債買い入れが市場の安定に寄与しているといっても、永続しうる手段ではない。資産価格バブルのような副作用も懸念する必要があろうし、ドイツ憲法裁判所の判決が提起したのは、大規模な国債買い入れの常態化に伴う問題である。ESMによる新たな資金供給も特別な優遇条件が付されており、継続するには改めて議論が必要となる。

第3に、欧州の団結をアピールする上で政治的に象徴的なアクションが望まれる。「救済基金」を巡る議論では、欧州域内でドイツやオランダに反発する世論が再び高まったほか、医療物資の供与やインフラ投資などをてこに欧州での勢力拡大を図る中国と域内国との政治的接近も、現実の可能性となっている。

5月18日に、基金構想に反対であったドイツのメルケル首相が、フランスのマクロン首相と5000億ユーロ規模の「復興基金」の設立に向けて合意したことには、こうした点への配慮も推察される。

これらに加えて、EUの中で金融政策の一元化が実現しているユーロ圏にとって、財政政策の一元化に歩みを進めることは、統合の持続可能性を高める上で積年の課題である。危機対策として拙速に「救済基金」を導入するのではなく、5月初めの欧州理事会で決定されたように、「復興基金」を欧州連合の中期予算(2021年から7年間)に位置づけたことは、むしろ望ましい動きともいえる。

これらの議論を踏まえると、「復興基金」は財政危機に陥った域内国政府を支えるのではなく、域内国政府が「ポストコロナ」の新たな経済社会を構築する上で必要な資金を供与するものと位置づけるべきである。

具体的には、欧州理事会が経済政策の柱として環境対策とデジタル化を既に示しているだけに、こうした分野に関する政策投資に対象を限定すべきである。一国の取り組みが周辺国にも「正の外部効果」を持つ点でも使途として説得力が高い。

長い目でみれば、特定の政策分野から順次統合を開始して、その経験を踏まえながら、次のステップに進むことは着実な前進にもつながる。

こうしたアプローチは、「復興基金」の機能を限定的なものにすべきとの慎重論を掲げるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデン(いわゆる「倹約4カ国」)の説得にも有効である。最大の対立点とされる資金供与手段の選択──融資か贈与か──も、長い目で見れば実質的な違いは大きくない。

これら4カ国が反対する贈与の場合でも、EUには域内国からの拠出金の徴収ルールを柔軟に運営することで、資金を実質的に回収する道も残されているからである。

積年の課題であった財政一元化に向けた大きな一歩として、欧州理事会での最終決着の内容が注目される。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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