元々の人気に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛を追い風に、任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」が大人気です。無人島で暮らす「スローライフ」をテーマにした同作ですが、裏のテーマはスローライフと対極といえる「経済」かもしれません。なぜならプレーヤーは金に敏感になる仕組みになっているのです。ゲームをしてない人にも分かるよう、同作の魅力を一味違う視点からお伝えします。
◇無人島暮らしでも大切な「金」
「あつまれ どうぶつの森」は、国内だけで既に300万本超を販売しています(出荷ではなく。ファミ通調べ)。全ダウンロード数を加えれば、どこまで上積みがあるか恐ろしい限りです。海外でも爆発的に売れており、米のウォール・ストリート・ジャーナルや英BBC放送など各国のメディアが取り上げています。
【参考】任天堂の「あつ森」、世界的ヒット 外出自粛、ゲームでつながり(時事通信)
「あつまれ どうぶつの森」は、手つかずの自然が残る無人島に移住したプレーヤーが自身でものを作り、言葉を話す「どうぶつ」たちと交流する……という内容です。具体的に何をするかと言えば、釣りと虫捕り、貝殻・果物拾いを繰り返し、ベル(金)をためて、家具を買いそろえ、家を拡張し、島を発展させていくのです。無人島暮らしでも「金」から切れないのです(笑い)。
その本質を、ゲーム関連のツイートを積極的にしている、米大リーグのダルビッシュ有投手が指摘しています。
「借金の森」というのは、絶妙な言い回しです。これは「どうぶつの森」が、無人島の移住費用を払うなど、同作のキャラクター・たぬきちにいきなり借金をすることを突いて、苦笑しているのです。
最初のローン(正確にはポイント)を返すと、続いて家の建設、増築(拡張)を提案され、長い“ローン地獄”がスタートします。最初は約10万ベルですが、次は約20万、その次が約35万と営業されてしまいます。
ローンといっても、催促ゼロ、金利ゼロ、手数料ゼロです。経営の視点でいうと「催促・金利ゼロて催促されないなら、ラッキーじゃん。借金じゃなくて『資産』じゃね?」という気もするのですが……。まあ、それで「ローン」と言われてお金を借りると、「借金=悪」ととらえてしまうのは仕方のないところです。
さらにいえば、家を拡張しなければローンは発生しませんが、無人島生活を過ごすうちに、モノが集まってきます。モノを飾る場所が欲しくなる絶妙なゲーム設計になっているのです。無人島なのに経済活動に組み込まれているのです。
◇スローライフなのにハードワーク
ローンを返すには、“仕事”をして金を稼ぐ必要があります。序盤のメインとなる“金”稼ぎは、お手軽な貝殻拾いと果物拾い、アクション性のある魚釣りと虫捕りがあります。
全部する必要はないのがスローライフたるゆえんですが、全部やると資産が早く増えますから、多くのプレーヤーは借金返済のためにダブルワーク、トリプルワークをして、ハードワークの日々を送ります。しかもゲームのうまい人は、レアな虫を捕まえることができ、レアな虫はカネになります。ゲームの腕で“経済格差”が生まれるのも見逃せません。
誤解なきようにいえば、ゲームの釣りや虫捕りは楽しいものです。ボタンの絶妙なレスポンスと効果音、操作性などは、任天堂の得意分野ですから、ずっとやり続けてしまいます。また果物も地面に植えると新しい木になり、そこからもさらに果物が取れるので、大規模果樹園の運営も可能です。ただし島の面積は限られ、収穫も基本は自分でやるしかないので、広げすぎると泣きを見ます。
リアルの経済で言うと、ビジネスをするとライバルが生まれ、価格競争になるわけですが、「どうぶつの森」にライバルはいません。そのギスギス感とは無縁なので、そういう意味では「スローライフ」なのかもしれません。ただし仕事ざんまい、金に縛られる生活になるので、その意味ではスローライフでないと思うのです。
◇「カブ」で人の本性むき出しに
「どうぶつの森」はゲーム内の時計と連動していて、日時がリアルタイムで進行する仕組みです。そしてプレーヤーがゲームの世界に慣れたころ、「カブ」を売るキャラ「ウリ」が日曜日午前中限定で出現します。
見た目は野菜のカブなのですが、この「カブ」は実質“株式”なのです。「カブ」は1つ100ベル前後で買え、かつ10個でワンセットになります。このあたりも株式そのものですね。
そしてこの株は1週間後(次の日曜日)には腐って1ベルの価値しかなくなるので、土曜日までに売る必要があります。どのタイミングで売るか、大変悩むのです。もちろんカブは暴騰することも、底値が続くこともあるので、現実の株取引に近いと言えます。ちなみにゲームの時間を巻き戻す“卑怯もの”には、天罰が待っています。時間を巻き戻すと「カブ」が瞬時に腐るのです(涙)。
つまり、これまでチマチマと金を稼いでいたところから、一気に大金をやり取りする“相場師”のような世界に突入します。もちろんスルーもできますが、あまりの圧倒的な金に目がくらみ、人の本性がむき出しになると思うのは私だけでしょうか? ちなみに私の妻もゲームを遊んでいて、「最初はカブなんてしない」と言い切っていましたが、今ではゲーム内“女相場師”です。
うまいのはゲームらしく、逃げ道を用意していることです。自分の島で「カブ」が下落しても、他の島では「カブ」の価格が違うため、ネットで接続して他のプレーヤーの島に渡り、「カブ」売り払えば、大量の売却益が手にできます。しかも「カブ」の変動も非常によくできていてドキドキできます。早く売りすぎたのショック感、売るのが遅かったときのガッカリ感は、なかなか言葉にしがたいものがあります。ゲームの世界なのに、こんな気分になるのは驚きです。
私の場合だと常時30万ベル(家の拡張費用相当)を投資しており、毎週のようにそれなりの売却益を受け取るので、「カブ」以降ゲームの展開が楽になりました。しかも売却益に税金はかかりません。なお一度失敗して、カブを全部腐らせてしまい(30万ベルの損)、大声を上げたこともありますが、総じてもうかっているのは確かです。
自分の島では「カブ」はなかなか暴騰しないわけですが、需要のあるところに“新ビジネス”が生まれます。暴騰した「カブ価」の証拠画像をネットで公開し、島に招待して相手に儲(もう)けさせる代わりにアイテムなどを“手数料”を取る“商売”が生まれています。リアル世界の「インサイダー取引」が可愛く見えるのは、私だけでしょうか?
ゲームをしていない人は、「スローライフのゲームでしょ? 無理をして金(ベル)を稼ごうとするの?」と疑問に思う人もいるでしょう。それは、家の拡張以外にも、島の発展のためには、橋や坂を作り、アイテムを買い集める必要があるからです。そのためには金、金、金なのですね。「金さえあれば何でもできる」の世界でして、かつ島の“公共事業”をやりたくなるよう、巧みに誘導してくるわけです。
島を改造して、景色が一変するのは気持ちの良いものです。大きな声で言えませんが、どうして行政は無駄な公共事業をしてしまうのか。絶対的な存在になると、見た目を奇麗にして、派手なものを作りたくなるから?……と思えてしまえるのが、ちょっと怖いところです。
他のゲーム、例えばRPGであれば武器の価格や宿泊費がハイパーインフレになるのですが、「どうぶつの森」はそんなことはありません。ゲームの仕組みをなるべくシンプルに保ちながら、それでいてゲームとしての面白さを担保し、ゲームのバランスも非常に取れています。だからこそ、経済の視点から考察したくなるのですね。繰り返しますが、さりげなく指向性がしめされていて、そこに誘導されてしまう、本当に面白いゲームなのです。
ちなみに最後は、センスが問われるのもいやらしいところです。お金を集めて島を改造して、モノを飾っても、それをどうデザインして美しく見せるかは、その人の感性がどうしても出るわけです。私のようにセンスのない人は、ツイッターに次々とアップされる素敵な他プレーヤーの島を見ては、心が折れそうになるわけです。ゲームの中でもそんな格差を見せつけなくても……とぐちってしまいます。それでも遊び続けてしまうところに、このゲームのすごさがあるのかもしれませんが……。
現実世界は、表の顔があれば裏の顔があるわけです。優しい世界にみえる「どうぶつの森」も、人には金は必要なんだという“厳しさ”をさりげなく教えてくれているのかもしれません。
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May 02, 2020 at 08:30AM
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