1400万の人口を抱え、大企業の本社が集中する東京都は、5兆円超の豊かな税収に支えられ独自の施策を展開してきた。現都政は「賢い支出」を掲げてきたが、中には丼勘定もちらつく。新型コロナウイルスは支出の増加と税収減をもたらし、都の財政運営にも影を落とす。(松尾博史、原昌志)
◆1600万円のデジタル看板を40カ所に
西新宿の都庁から新宿駅につながる中央通り。歩道脇にぴかぴかのデジタル看板が立つ。地図を表示するだけでなく、パネルをタッチすると飲食店や観光スポット、イベントの情報を見ることができる。
1台当たりの設置費は1600万円、運用費は年間280万円。今夏に予定されていた東京五輪・パラリンピックに向けて、外国人観光客らの街歩きに役立ててもらおうと、都が2015年度から整備を始め、屋外40カ所に設置した。「通常の観光案内標識よりも表示できる情報量が多く、多言語で案内ができる」と担当者は説明する。
だが今年2月、都の包括外部監査報告書で、公認会計士が費用対効果についてこう指摘した。「通常の観光案内標識の約6倍の設置コストが必要。通常の標識以上に利用者に価値を提供しているかという点で検証が必要」「スマートフォンで検索できる情報量に比べ圧倒的に少ない」
◆利用少ない「駅ナカ検温コーナー」に140万円
費用対効果が不明なケースは、都の最優先課題となっている新型コロナ対策でも。
都営地下鉄都庁前駅の改札を出て右側に、駅利用者に体温をチェックしてもらう「駅ナカ検温コーナー」がある。1セット70万円のサーモグラフィーを2台購入し、3月4日に設置した。
都によると、設置直後の日中の利用者は推定で一日に約200人だった。同駅の一日の乗降客数は平均約5万2000人(18年度)。コロナ自粛で2~3割程度の乗客が減ったと仮定しても、利用率はあまりに低い。
「引き続きお客さまに体調管理に気を使ってもらいたい」と担当者は説明するが、現在は利用者の姿はほとんどなく、都も人数を数えるのをやめている。
◆執行率30%以下の事業が23件
いずれも都の予算規模から見ればわずかな額だが、「金銭感覚」の緩さは他にも見られる。
「前代未聞。大盛りを頼んで残しちゃうようなもの。失礼な話だ」。19年10月の都議会決算特別委員会で、委員から厳しい声が飛んだ。俎上に載ったのは、18年度に50億円の予算を組んだベビーシッター利用支援事業。執行率はわずか0.8%だった。都側は「区市町村などとの調整に時間を要した」と釈明したが、事業の見通しの甘さをさらす形となった。
都が今年3月に議会へ提出した資料によると、18年度の新規・拡充事業77件のうち、執行率30%以下は23件あった。都内自治体の財務系幹部は皮肉まじりに語る。「うちじゃとても持たない。住民から他に回せと突き上げられる。カネがある都だからこそできるのでしょう」
◇
◆都市博中止、新銀行東京、豊洲移転中断…都の巨額支出の数々
東京都では、これまでも賛否が割れる巨額な支出が繰り返されてきた。1995年、当時の故青島幸男知事(当時)が公約の「世界都市博覧会の中止」を断行。中止に伴う損害賠償など財政影響額は610億円とされ、巨額な中止費用は議論を呼んだ。
2008年には石原慎太郎知事(同)が開設した新銀行東京(現きらぼし銀行)が経営危機に陥り、都は400億円を追加出資した。09年には、16年東京五輪招致に失敗し、都は招致費用約150億円のうち約100億円を支出した。
最近では、築地市場の豊洲移転の一時中止で多額の費用が発生。予定通りに移転した場合との比較は難しいが、移転延期中の都の支出は約250億円に上った。(岡本太)
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