内閣府は財政健全化の指標となる「基礎的財政収支」について、高めの経済成長を実現できたとしても2025年度の赤字が7兆3000億円に上るという最新の試算をまとめました。黒字化の目標達成は一段と厳しい状況となっています。
政府は財政健全化に向けて政策に充てる経費を借金に頼らず税収などでどれだけ賄えるかを示す「基礎的財政収支」という指標を2025年度に黒字化する目標を掲げています。
内閣府が経済財政諮問会議で示した最新の試算によりますと、今年度・2020年度の「基礎的財政収支」の赤字額は、半年前の試算の4倍を超える67兆5000億円に拡大する見込みです。
新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。
そして、今後、実質で年間2%程度の高めの経済成長を実現できたとしても政府が黒字化を目指している2025年度の赤字は7兆3000億円に上る見通しです。赤字額は半年前の試算のおよそ2倍に拡大し、黒字化は目標より4年遅れて2029年度にずれ込むとしています。
一方、今後、実質で1%程度の経済成長が続いた場合は、2025年度は12兆6000億円の赤字となり、試算の最終年度となる2029年度でも10兆3000億円の赤字が残るとしています。
黒字化の目標達成はすでに極めて厳しい状況になっていますが、今後、新型コロナウイルスによる経済の停滞が長引けば、さらなる財政出動と税収の落ち込みで財政状況がさらに悪化することも懸念されます。
このため、景気を早期に回復させるとともに日本経済の成長力を高め、歳出・歳入の両面で一段と踏み込んだ改革を断行できるかが財政健全化の鍵を握ることになります。
“最悪の水準”が一段と悪化
内閣府が発表した最新の試算によりますと、今年度の国と地方を合わせた借金の残高は昨年度より82兆9000億円増えて、1146兆5000億円に達する見込みです。これは、GDP=国内総生産の2倍以上にあたります。
新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための2度にわたる補正予算で、財源として57兆円余りの国債を追加で発行したことが主な要因です。日本の財政はすでに先進国で最悪の水準でしたが、大規模な財政出動によって一段と悪化した形で、感染拡大による経済の停滞が長期化すれば、さらなる財政支出が必要になる可能性があります。
また、いわゆる団塊の世代が75歳以上となっていく2022年が2年後に迫り、国の一般会計の歳出の3分の1を占める社会保障費のさらなる増大が避けられない状況です。
政府は基礎的財政収支を2025年度に黒字化し、借金の残高を安定的に引き下げていく目標を維持するとしていますが、財政健全化への道筋は見通せず、新型コロナウイルスによる影響が収まったあと、財政再建への取り組みをどう進めていくかが問われます。
各国の状況は
新型コロナウイルスの感染拡大で景気が落ち込む中、世界各国も大規模な経済対策の実施によって日本と同様に財政が悪化しています。
このうちアメリカでは今月までに総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や中小企業の支援などにあてられています。
中国はウイルス対策のためのおよそ15兆円規模の特別国債を発行するほか、地方がインフラ事業などに使う債券の発行枠を去年より大幅に拡大して56兆円余りとするなどの対策を打ち出しています。
イギリスはGDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、引き下げるなどしています。
また、ドイツは補正予算で新規国債を7年ぶりに発行したほか、付加価値税の引き下げなどを実施しています。
IMF=国際通貨基金によりますと、世界全体の公的債務残高のGDP比は、先月時点の推計で101.5%と、去年より18ポイント余り上昇し過去最悪となる見通しです。
国別に見ると、
▽日本が去年より30ポイント高い268.0%
▽アメリカが32ポイント高い141.4%
▽イギリスが16ポイント高い101.6%
▽フランスが27ポイント高い125.7%
▽中国が12ポイント高い64.1%などとなっています。
各国ともに大規模な財政出動の財源を国債の発行などで賄い、債務が急激に膨らんでいることがうかがえます。
専門家は「感染拡大が収まらないと財政悪化は長く続く」
政府の財政健全化目標の達成が一段と困難になったとする見通しが示されたことについて、大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「新型コロナウイルスの感染拡大への対応で歳出が増えた一方、景気が急激に悪化して税収が大幅に落ち込み、歳出歳入の両面で財政が悪化した。感染拡大が収まらないと経済活動が本格化できず、財政悪化は長く続くと考えられる」と述べました。
そのうえで、今後の課題について「歳出を拡大した分の財源をどうやって確保するかに加えて、高齢化が加速する中、社会保障の負担と給付のバランスの見直しも同時に進めなければならない」と述べました。
そして財政の持続可能性について、「現時点で国債への信認が揺らいでいるとは思わないが、どんどん財政が悪化すればいずれ条件が変わるので、少しずつ取り組みを進める必要がある。2025年度の健全化目標の達成はほぼ不可能だと思うが、単純に先送りするだけでは全く意味がなく、どう達成できるのか、きちんと筋道を示すべきだ」と指摘しました。
そのうえで感染拡大への対応で先進国と比べ経済基盤が弱い新興国でも国債が増発されるなどして財政が悪化していることについて「アジア通貨危機のように新興国の通貨、経済が揺らいで先進国に飛び火する可能性があるので、新興国の感染拡大をどう抑えるかについても日本を含めた先進国が積極的に関与すべきだ」と指摘しています。
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July 31, 2020 at 04:47PM
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