新型コロナの新規感染者数の推移が、今後の経済動向を大きく左右する
新型コロナ以後の世界において、私が経済・経営の専門家として最も注視している数字は、アメリカでの新型コロナ新規感染者数の推移です。それは、その数字の推移がアメリカ経済、ひいては世界経済の行く末を大きく左右すると考えているからです。
アメリカの新規感染者数(7日移動平均)の推移をみてみると、4月9日に31,630人とピークを打ったあと、6月9日には20,357人にまで減少していました。ところが、経済活動が緩すぎる基準のもとで再開されたために、新規感染者数は再び増加傾向に転じてしまったのです。(グラフ参照)
その結果、新規感染者数は6月25日に過去のピーク(4月9日の31,630人)を上回り、7月20日には過去最高の67,217人にまで拡大してしまいました。その後、足元の7月29日時点では63,530人(暫定値)とやや沈静化の動きをみせています。
(※注:1日ごとの新規感染者数は数字の振れが大きいことがあるので、傾向を捉えるには過去7日間や10日間の平均値でみるのが一般的です。)
今回も歴史の教訓は生かされなかった
私は大学で歴史学を専攻しましたが、感染症の専門家と歴史の研究者の回答はまったく同じになります。それは、感染症には複数の波があるということ、感染を抑えるためには安易に規制を緩めてはならないということです。それらの教訓は、第1次大戦中に大流行したスペイン風邪をはじめ、2000年以降に流行したSARSやMERS、鳥インフルエンザなどで得た教訓から学べば、すぐさま理解できることです。
しかし、アメリカでは今回も歴史や科学の知見を活かすことができず、当初から懸念されていた第1波の再拡大を招いてしまいました。アメリカは経済活動を再開するのであれば、「外出時は必ずマスクをする」「ソーシャル・ディスタンスを保つ」など、各々の州政府がルールの明確化と周知徹底を行うべきだったのです。(7月3日の記事『歴史の教訓は今回も生かされなかった』参照)
また、参照記事のなかでは、日本もアメリカと同じようになるだろうと指摘しましたが、残念ながら、そのとおりの展開になっています。日本もアメリカと同様に明確なルールを決めることなく、安易に経済活動の再開に踏み切ったために、新規感染者数(7日移動平均)は右肩上がりに増え、7月29日時点で800人と過去最多を連日で更新するまでになってしまいました。(グラフ参照)
(※注:日本の1日の新規感染者数は、7月29日時点で1000人を超えてきています。)
アメリカで進むマスク義務化の流れに期待
先ほども少し触れましたように、アメリカでは感染拡大が沈静化する兆しが見え始めています。アメリカの半数を超える州では7月中旬以降、人前でのマスク着用の義務化が進んでいるからです。マスクの義務化に反対していた共和党知事のなかにも、義務化を認めざるをえないケースが出ているためです。
自由を標榜するアメリカ社会にとって、これは大きな変化だと思います。8月に入ればマスクの義務化を実施している州では、新規感染者数の増加を抑制する効果が表れてくるのではないかと期待しているところです。
ただし、残る大きな心配があるとすれば、今もアメリカ全土で展開されている「Black Lives Matter」運動です。このデモ活動では、マスクをしていない人々が実に多いのです。スペイン風邪がアメリカ軍の兵士から欧米の人々に広がったのは、当時の反戦デモや労働ストライキを通してでした。私たちは歴史の教訓を決して忘れてはいけないというわけです。
経済の長期低迷は覚悟しなければならない
サービス業を代表する小売店や飲食店、宿泊施設などでは、ソーシャル・ディスタンスを求められるかぎり、営業を再開しても客数を半分程度、あるいはそれ以下に抑えなければなりません。売上げも雇用もコロナ以前には容易に戻らないというのが自明の理であるのです。
アメリカでもヨーロッパでも日本でもサービス業は就業者数が最も多く、給与水準が他の業種と比べると低い状況にあります。しかしそれゆえに、景気が悪い時に失業者を吸収するという役割を果たしてきました。コロナのもとではその役割が機能しないのが、大きな問題として浮上してします。
新型コロナの感染の波は、まだ第1波が再拡大している途上にすぎません。第1波が収束したあとに、第2波や第3波にも備えなければならない現実を鑑みると、今後の世界経済は当初の想定以上に低迷が長期化すると考えておいたほうがいいでしょう。
(※注:日本のメディアでは現状の感染拡大を第2波という言い方をしているところもありますが、感染症の歴史から見れば第1波が正しい認識になります。)
ワクチンは本当に救世主になるのか
アメリカのメディアでは、新型コロナのワクチンが開発されれば、経済が劇的に回復するだろうといわれています。ワクチンの開発をめぐっては、米バイオのモデルナや英製薬大手のアストラゼネカが今秋にも実用化を目指すとしていますが、今年のうちに最終段階の治験が成功するかは誰にも分かりません。来年にずれ込むことも十分にありえます。
そのうえ、英国やドイツ、中国などの研究では、新型コロナの抗体が長続きしないという結果も報告されています。これが事実であるとすれば、ワクチンがそれほど役に立たないということになってしまいます。
新型コロナに関しては、まだ科学的にわかっていない点が多く、これからの研究で新しい事実が次々と明らかになってくるでしょう。今の段階でいわれている常識が、実は間違っていたなんてことにもなりかねないのです。そういった意味では、ワクチンに過度な期待をするのは禁物です。
なぜ政府は感染対策に見事に失敗したのか
日本はなぜ新型コロナの感染抑止に見事に失敗したのでしょうか。
その答えは、極めて簡単です。これまでの政府の対応が、歴史の教訓や科学の知見を無視していたからです。感染症の歴史を少しでも学べば、取るべき対策は自ずと決まってくるはずなのに、政府の要職にある方々がそういった意識が希薄だったのは、非常に残念でなりません。
また、アメリカが感染対策の初動で失敗したのは、歴史や科学に学ばないトランプ大統領の資質によるところが大きかったのですが、日本政府はなぜこの失敗に学ばなかったのか、ことさら理解に苦しみます。
政府が頼りにならない時代に、国民が各々で意識したいこと
企業経営にしても国家運営にしても、予想される危機に対しては「小さいうちに早急に」対応するのが鉄則です。この点でも、政府の危機管理能力がいかに低いのか、国民は嫌というほど思い知らされたのではないでしょうか。
いずれにしても、私たちはワクチンに頼ることができない状況が続いた場合、これからの経済・社会がどのように変化していくのか、歴史が教えてくれる様々な教訓をもとに考える必要があります。それに伴って、各々が柔軟に働き方(もちろん、企業の理解ある対応が求められますが)や生き方を変えていく必要もあります。それが、国民ひとりひとりの危機管理能力につながっていくというわけです。
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July 31, 2020 at 01:49PM
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