Tuesday, November 3, 2020

「デジタル円」時代になっても財政規律が重要な理由 - ASCII.jp

写真はイメージです Photo:PIXTA

中銀デジタル通貨が普及すれば
いまの「日本円」は存在するか

 中央銀行デジタル通貨への関心が高まる中でよく聞かれるのは、「日本円はなくなるのか」というものだ。

 答えは言うまでもなく「ノー」である。デジタル円が導入されても、物理的な存在である現金がデジタルデータに変わるだけで、日本円であることに直接的な影響はない。

 しかし、もう少し長い目で見ると、実は答えもそう単純ではない。

国際通貨圏の一部に組み込まれる
可能性は否定できない

 日本銀行による「デジタル円」が本格的に導入されれば、どういうことが起きるのだろうか。

 まず考えられるのは、民間サービスとの高度な連携だ。専門的な言い方をすると、相互運用性が実現することが期待されることだ。

 例えば、スマホ上で日銀が供給するデジタル円と民間企業が提供する消費者サービスのポイントなどが簡単に交換できるようになる。

 ただ問題は、その民間企業は海外資本かもしれないし、交換されるポイントが外国通貨自体かもしれない。つまり、円と外貨がより円滑に交換できる状況も同時に現実になる可能性がある。

 このことはすでに銀行のアプリなどでは現実に行われているが、デジタル円が家計や企業の支払い・決済に幅広く利用されるだけにその影響の大きさは銀行のアプリとは比べものにならないだろう。

 もちろん、海外資本の企業がどんなに魅力的な消費者サービスを提供しても、円から外貨へのシフトは支払いや決済に関連する部分に限定されるはずだという見方もあるだろう。

 しかし、支払いや決済だけでなく資産運用に関しても海外資本が競争力あるサービスを持ち込むことも考えられる。

 一般の家計が為替リスクを伴う取引を積極的にするのかという疑問もあるかもしれない。

 ただ2010年代の半ば以降、円の対主要国通貨に対する為替レートが1980~90年代に比べて格段に安定している事実もある。

 その理由は判然としないが、主要国の成長率やインフレ率が収斂してきたことが主因だとしたら、この状況は今後も続く可能性がある。

「デジタル円」と直接の関係はないが、日本経済がグローバルなサプライチェーンに強固に組み込まれる中で、企業はかつてのように輸出だけでなく、輸入に伴う為替市場の変動リスクにさらされる度合いも高まっている。

 そうした下では、国内のさまざまな支払いも含めてすべてを外貨建てにできるのであれば、その方が為替リスクをむしろ軽減できる。

 こうして生産活動のグローバルな分業が将来も増えそうなことを考えれば、日本でも外貨が広範に使用される状況――いわゆる「ドル化」――に向けた環境は相応に存在する。

 そして通貨の持つネットワーク外部性、つまりより多くの利用者が利用するほど利便性が向上するという特性を考えると、日本が長い目で見ていずれかの国際通貨圏の一部に組み込まれる可能性も否定できない。

「日本円」が使われなくなるコスト
政策当局には課題が現実に

「ドル化」が上記のように家計や企業の合理的判断によって進むのであれば、家計や企業には必ずしも悪いことではないし、それによるメリットも生まれる。

 だがその一方で、政策当局にとっては、それまでよりもより難しい課題が現れることになる。

 まず、中央銀行は自国通貨の量や金利を調節しても、家計や企業の行動にも影響を与えることが難しくなる。金融政策の有効性が低下するわけで、この点は「リブラ」のような通貨類似手段の影響として、昨年から広く議論されてきた通りだ。

 ただ主要国間での経済ファンダメンタルズの収斂が不可逆であり、景気循環の同期化が進むのであれば、おのおのの中央銀行が独自の金融政策を運営する必要性も徐々に低下する。

 国際通貨圏の中心にある中央銀行の政策に追随すれば良いわけで、FRBの政策運営が主要国中央銀行の政策運営に強い影響を持つ昨今を見れば、すでにこうした状況が実現しつつあるともいえる。

 中央銀行が「最後の貸し手」の役割を果たすことができるかという懸念を持つ人もいるかもしれない。

 しかし、自国通貨の使用が低下している下で必要なのは外貨の供給だ。

 これについても、リーマンショック後に導入され、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)問題による金融市場の不安定を抑えるために活用された中央銀行間のドルスワップ網とそれを用いたドル資金オペを応用すれば対処できる。

 とはいえ日本と主要国のマクロ経済が収斂しても、個別の産業や地域に関するミクロの問題は残るので、政府による資源の配分や所得再分配政策は引き続き必要だ。

 財政政策は、円か外貨かを問わず、適切に税収が確保できている限り効果を発揮し得る。

 もちろん、企業や家計の資産が海外資本の提供する外貨建てのサービスに流出すれば、所得の把握が難しくなる可能性はあるが、一方でデジタルな支払いや決済手段が広範に使用されることでデータによる所得の捕捉が容易になる面もあるだろう。

 ただ、それでも財政に関しては既存の自国通貨建て債務をどうするかという問題が残るということは、「デジタル円」の普及する時代を考える上でも重要なポイントだ。

 日本が国際通貨圏に組み込まれる場合、円建ての資産や負債は固定レートで外貨建てに切り替えられることになるだろうが、そこから先は外貨建ての巨大な資本市場における一つの金融商品にすぎなくなる。

 そうなると、国内投資家が自国通貨建て資産を選好するホームバイアスも、中央銀行の量的緩和による巨額の日本国債の買い入れもどこまで継続できるかは不透明になる。

 なぜなら国際通貨圏における財政の統合という政治的に大きなハードルを伴う課題を克服しない限り、局面によって特定国の国債に大きなストレスがかかる可能性が高いことは、近年のユーロ圏の状況を見れば明らかだからだ。

「デジタル円」の交換レート不利に
政府債務の実質負担増える恐れ

 以上のように考えてくると、「デジタル円」の導入後を展望した財政の規律に対する長期的な意義が浮かび上がる。

 つまり、日本が国際通貨の一部に組み込まれる中で外貨へのシフトと財政の健全性の低下が同時に進めば、財政資金の調達コストが上昇する可能性がある。

 同時に、中央銀行が長期にわたって強力な金融緩和を続ければ、将来の購買力低下に対する不安も外貨へのシフトを促進するかもしれない。

 これらの外貨シフトによる円の減価は、国際通貨圏に組み込まれる際の外貨との交換レートを不利にし、政府債務の実質負担も増やしかねない。

 つまり中央銀行デジタル通貨が本格普及した後の将来を展望すれば、外貨シフトに伴う「デジタル円」安を防ぐためにも、財政の健全性がやはり重要ということだ。

 これはあくまでも長期かつ悲観的なシナリオの一つにすぎないが、現在の巨額の政府債務を修正するのには相応の時間を要することも事実だ。

 それだけに、財政の規律は、景気回復のための機動的な政策対応とは別の問題として、きちんと考えておくべき話である。

(野村総合研究所金融イノベーション研究部主席研究員 井上哲也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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