「新しい資本主義」を標榜する岸田文雄首相。その「新しい資本主義」とはいったいどんなもので、どれほどまでの実現性があるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
* * * 岸田文雄首相は、自民党総裁選挙で新自由主義的な政策を転換して規制緩和・構造改革路線から脱却し、中間層への再分配を強化して格差を是正する「令和版所得倍増」を掲げた。また所信表明演説では「成長と分配の好循環」によって「新しい資本主義」を実現する、と強調した。
しかし、これまで指摘したように、日本は規制撤廃と構造改革を断行し、個人も企業も自由に動けるようにすること以外に、経済が前進する力は生まれてこない。新自由主義的な政策を転換したら所得倍増は不可能であり、中間層への再分配を強化する財源も確保できない。
そもそも「新しい資本主義」が具体的にどのようなものを意味しているのか全くわからない。もし、それを岸田首相が考え出して実現することができたら、ノーベル経済学賞ものだろう。また、「成長と分配」という言葉についても具体性がない。この二つを経済の両輪とするのは当たり前の話であり、成長しないと分配を増やすことはできない。したがって、成長が止まってしまっている日本をどうやって再び成長させるのか、あるいは、従来から高度福祉社会的な分配をしてきた日本がこれから何を原資としてどのように分配していくのか、といったことを説明しなければ意味がない。
さらに、岸田首相は総裁選で公約に掲げた「金融所得課税の見直し」を当面の間、撤回する意向を示した。就任後の株式市場の下落や経済界からの反発に配慮したそうだが、それは言い換えれば、もともと自分の固い信念に基づいていたわけではなかったということではないか。「令和版所得倍増」についても、国民に耳あたりのよいキーワードを並べて“言葉遊び”をしているだけのように思える。
一方、経済格差の是正は世界的に取り組むべき喫緊の問題だ。このため136か国・地域は、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)をはじめとする多国籍企業の課税逃れを防ごうと、法人税の最低税率を世界共通で15%にするとともに、ボーダレスにビジネスを展開する巨大IT企業などを対象にした「デジタル課税」も導入し、現地に業務拠点がなくてもインターネットサービスなどで一定以上の利益を上げている企業に課税できるようにする国際課税の新ルールを導入することになった。
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November 03, 2021 at 01:00PM
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