Friday, January 3, 2020

(社説)米中対立と日本経済 「頂点への競争」目指すとき - 朝日新聞社

 今世紀に入り、世界経済はグローバル化とデジタル化の道を突き進んできた。ここ数年、その先端で鮮明になってきたのが米国と中国の対立だ。

 2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して以来、政治体制の違いは大きくとも、経済活動では国境を越えた融合が進んできた。その構図がいま揺らいでいるかに見える。米中貿易紛争は小康状態になったとはいえ、根底にある覇権争いは、産業や技術の分野に及んでいる。

 ■冷戦とは異なる様相

 最先端の第5世代通信規格をめぐって中国企業の華為技術(ファーウェイ)を排除するといった動きがどこまで広がるのか。米中いずれでもビジネスを展開する企業にとって、神経をとがらせる状況が続いている。

 日本でも、昨年末の臨時国会で外国為替及び外国貿易法の改正が全会一致で決まった。安全保障上の重要技術が海外に流出するのを防ぐため、外資による日本企業への出資規制を強める内容だ。今春には国家安全保障局に経済班が置かれる。

 もとより経済と安全保障は無関係ではない。外為法は米ソの冷戦時代にも活用された。だが中国は国際分業に組み込まれながら経済規模を拡大し、一部では先端技術も手にした。かつての冷戦とは様相が違う。

 いくら対立が先鋭化しても、米中の経済圏が完全に分かれるわけではないだろう。昨年末の合意で、中国から米国に輸入されるスマートフォンなどの関税引き上げが見送られた。極端な障壁は両国の利益を損なうという現実の反映だ。

 米中が深く結び付きながら覇権を争う。その中で、両国に次ぎ世界3位の経済規模を持つ日本は、どう振る舞うのか。

 安全保障の中核にかかわる部分では、米国との協調が必要だろう。しかし安保の論理を経済の領域に野放図に広げたり、中身を問わずに米国に追従したりするのは避けなければならない。政治と経済の関わりについて、その場しのぎではない視座を持つ必要がある。

 ■何を問題とするのか

 市場経済においても政府の役割は重要だ。景気の安定化と適正な再分配に加え、健全な競争環境を保ち、教育や基礎研究、公共財を提供する。

 グローバル化やデジタル化は国民経済全体としては恩恵が大きいが、海外との競争に敗れたり、機械に仕事を奪われたりといった人々も生む。変化のスピードが速ければ、政府が関与すべき課題も多いはずだ。

 試金石の一つは、革新的なサービスと同時に、国際的な寡占と富の偏在を生んでいる米中の巨大IT企業にどう臨むかだ。いたずらな外資たたきは生産的でないし、米中対立の時代だからといって、米国企業は認め中国企業は排除するといった単純な選択も解ではない。

 何を許容し何を問題とするのか。まず格差の拡大と独占に歯止めをかけねばならない。巨大企業へのデータの集積が人権を損ねないかとの懸念も大きい。政府との関係が不透明な中国企業でより深刻だが、企業の国籍を超えた課題でもある。

 公正な競争を保ち再分配の財源になる課税の抜け穴を防ぐ。個人情報の悪用は許さない。そうした視点こそ、経済への政策的介入の基準になるべきだ。

 企業活動に制約を加えると、日本での投資が減り、成長が鈍る恐れはないだろうか。米国はもちろん、政治的自由が制約されている中国も民間経済の自由度は高い。後れをとることにならないのか。

 ■舞台を広げるために

 米ブルッキングス研究所のミレヤ・ソリス氏は著書『貿易国家のジレンマ』の中で、「底辺への競争」と「頂点への競争」を対比している。前者は、貿易自由化に伴い、企業をひきつけようと労働や環境の基準を切り下げる競争が起きるという仮説だ。ただし実証的には確認されていないという。

 一方で、カリフォルニア州がより厳格な環境基準を求めたような「頂点への競争」も起こりうるという。厳しい基準に適合できることは、企業の競争力の源になるからだ。

 日本経済は現時点では相応の規模を持つ。米中のはざまで「底辺への競争」の不安に溺れるのではなく、新時代の「頂点への競争」を切り開くことこそ目指すべき道ではないか。

 社会的公正と人権の確保を土台にし、経済成長を実現する。それを支えるのは、政治的には自由と民主主義であり、経済的には豊かな購買力が国民に幅広く行き渡り、自発的で多様な選択が行われる社会である。

 そうした営みは自国内では完結し得ない。「頂点への競争」の舞台を広げるには、同様の価値観を共有するできるだけ多くの人々と、国境を越えて協調することが必要だ。デジタル課税やデータ保護などでは、欧州を中心に芽が育ち、日本も小さくない役割を果たしている。その流れを、さらに加速させたい。

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January 04, 2020 at 03:00AM
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