Thursday, August 27, 2020

もう給料は増えない 成熟経済に残された投資の可能性 - 日本経済新聞

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

栄華を極めた日本経済

第2次世界大戦で敗戦国となった日本は焼け野原から再スタートした。その後日米安保体制が確立。日本は経済再生に国力を集中させることができたことで、官民挙げてモノづくり産業を育成し輸出主導での高度経済成長軌道をつくれたんだ。

1950年代から数十年にわたって欧米先進国をはるかにしのぐ高い経済成長を続け、経済規模では米国に次ぐ世界第2の経済大国になったんだ。質の高い日本製品が世界を席巻。平成時代が始まった89年末には日経平均株価は3万9000円近い史上最高値を付けた。当時、世界企業の「時価総額ランキング」ではベスト50社中30社超を日本企業が占め、文字通り「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を謳歌(おうか)した。日本は実質的に世界で最も豊かな国になったんだ。

……そして暗転

ところが90年代に入り、バブル崩壊とともに日本の高度経済成長時代は完全に終焉(しゅうえん)を迎えた。世界有数の先進国になれば、当然成長は鈍化、成熟経済へといや応なく転換すること自体は欧米の例に倣う歴史の必然だ。

ところが日本はここで決定的なミスをおかす。政府が成熟社会に向けた構造改革を怠ったことで、経済が供給過剰と需要不足のダブルパンチによるデフレ病に陥ったんだ。そしてデフレ脱却へ適切な処方を施せぬまま、物価は下がり続けた。

日本は長いデフレのトンネルに入った

生活者は待っていればもっと安くモノが買えるようになる、と消費を手控えた結果、産業界では売り上げが減って業績が悪化した。そうなると企業経営者はコストを削減せざるを得ず、従業員の給与を軒並み下げて対応する。給与が減った生活者はますます消費を抑制するようになり、企業業績はさらに落ち込んでいく――。こうした一連の循環がデフレスパイラルと呼ばれる負の連鎖なんだ。この「デフレ経済」は結局、平成期の長きにわたって解消されず日本経済は「成長」を失い続け、国民の所得水準も低下していったんだ。

世界経済の成長は続き日本経済の地位は低下

この間、世界は休んではいない。世界経済全体でみると安定した成長を達成し相応な所得向上が持続的に実現したんだ。だから日本経済の世界経済に占める比率はどんどん低下し、国民1人当たりの国内総生産(GDP)は世界トップ級だった90年代から今となっては先進国で最低レベルにまで下がってしまったんだ。

私たち日本の生活者を給与所得者として考えれば、ドンドンお給料が上がっていく局面は終わった。その事実を直視した上で、給与以外にもある資産形成の道を追求すべきなんだ。つまりこの先も日本経済は成長が見込めず、よって給与所得も増えないことを所与のものと覚悟した上で、自らのお金は世界経済の成長軌道に放り込んで恩恵をじっくり育てていく。これが長期国際分散投資に向かう意義なんだ。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会理事。全国各地で年間150回講演やセミナーを行っている。『預金バカ』など著書多数。

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