両手に2つの物があると想像してみよう。一つは紙で、もう一つはゴムバンドだ。両手で強く握って離すと、紙はくしゃくしゃなままだが、ゴムバンドは元の形に戻る。
経済学者は、経済をゴムバンドのように考える傾向がある。ショックの後、彼らはそれが正常に戻ることを期待している。くしゃくしゃの紙のように元に戻らない場合、それを「ヒステリシス(履歴効果)」と呼ぶ。つまり、何らかの大規模な混乱によって永続的な変化がもたらされることを意味する。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)はその典型的な例だ。果たしてコロナ禍は、経済にどんな永続的ダメージを残すのだろうか。
まず目を向けるべきは教室だ、と米スタンフォード大学の経済学者で教育研究者のエリック・ハヌシェク氏とマーガレット・レイモンド氏は話す。コロナ禍で失われた子どもたちの学習時間は、彼ら自身の長期的な将来性だけでなく、米国全体の繁栄にも永続的な悪影響を及ぼす可能性があると夫妻は指摘する。
レイモンド氏は18の州とワシントンD.C.を調査し、昨年のコロナ禍の初期段階に平均116日の読書時間と215日の算数の学習時間が失われたと結論づけた。この教育は取り戻すのが難しく、子どもたちが一世代丸ごと学習や試験で追いつくのが難しくなる可能性がある。もしあなたの子どもが今、分数を習えずにいるとしたら、後に代数の成績はどうなるだろうか。
そして、その衝撃は不均等に分布している。農村部と黒人や中南米系の人口が多い地域の子どもたちが最も打撃を受けている。レイモンド氏の研究によると、中でも影響を受けている州がサウスカロライナとイリノイだ。
経済生産高は、イノベーション(技術革新)、労働者が仕事に持ち込むスキル、商品やサービスを生み出すために使用する機械と相関性がある。イノベーションとスキルは教育によって形成される。ハヌシェク氏の推計によると、2020年のスキルショックによって、次世紀に今日のドルで25兆~30兆ドル(約2651兆~3181兆円)の経済生産高が失われ、影響を受けた学生の生涯世帯収入は6~9%減少する。
ハヌシェク氏はこの結論を導き出す上で、ドイツの学生の事例などを検証した。ドイツ政府は1966年と67年、学校の年間予定表を改変するため一時的に学年を短縮した。縦断的な研究によれば、この授業時間の喪失によって、その学生群の所得は生涯にわたって5%減少したという。今日の生徒たちは「学校に戻っても、コロナ禍の長期的な影響を感じることになるだろう」とハヌシェク氏は話す。
ヒステリシスという言葉は、磁気の物理学に由来している。金属の物体に十分な大きさの磁力を加えると、物体の極性が恒久的に変化することがある。このメカニズムは、例えば、ハードドライブのメモリーを作るのに使用されている。経済学では、ヒステリシスは通常、ショック後のダメージと関連付けられているが、ワクチン技術の開発や在宅勤務の選択肢など、ポジティブな変化もあり得る。
経済学者は長年、労働市場におけるヒステリシスの証拠を探してきた。欧州では1970年代から1980年代にかけて、経済学者のオリビエ・ブランシャール氏とローレンス・サマーズ氏が、景気後退時には予想通り失業率が上昇する傾向があるが、景気が回復しても完全には以前の水準に戻らないことに気づいた。つまり、ゴムバンドは元の形に戻らなかったということだ。
両教授は1986年の論文「失業におけるヒステリシス」の中で、その原因は市場の構造的な問題にあると推測した。労働組合は労働者の失職を防ぐためには懸命に闘うが、解雇された労働者の支援はほとんどしないことが多く、それが再就職を難しくしていた。法律に規定された労働者保護にも同様の効果があった。つまり、景気後退時に労働者を解雇するのが難しかったため、企業は景気後退後も再雇用に消極的になっていた。「一時的なものだと思っていたショックが長期間続く影響を与えていた」。ブランシャール氏は最近のインタビューでこう語った。
30年後、ブランシャール氏は2007~09年の金融危機後の労働市場におけるヒステリシスの問題を調べた。何百万人もの米国人が失業の長期化を経験していた。2010年には失業中の労働者の半数近くが少なくとも半年間は無職の状態にあった。これは驚くべき高い数字だ。危機前の半世紀は、半年間にわたり無職の状態にある人は、平均で失業者8人につき、わずか1人だった。
ブランシャール氏をはじめとするエコノミストは、雇用市場に参加できず、自らのスキルの低下を目の当たりにしている人たちが永続的なダメージを受けることを懸念した。求職を断念する人もいれば、連邦政府の障害者手当に頼る人もいた。しかし、景気拡大が進むにつれ、労働市場に引き戻される人もいた。ブランシャール氏は、ヒステリシスの証拠が予想していたよりも説得力に欠けることを発見した。
現在の経済危機では、ワシントンの政策立案者は、長期失業率の再上昇を逆転させるため、できる限り早く失業率を下げようと躍起になっている。労働経済学者であるジャネット・イエレン財務長官が、議会に救済策について「大胆に行く」よう求めているのも、それが理由の一つだ。
ヒステリシスは今回、全産業に作用しているかもしれない、とブランシャール氏は述べた。例えば、航空旅客輸送、商業用不動産、実店舗小売りなどは、元には戻らないかもしれない。
ハヌシェク氏やレイモンド氏と同様、ブランシャール氏が最も懸念しているのは、コロナ禍が子どもたちや彼らの労働者としての将来に長期的に及ぼす影響だ。「子どもたちが安全に学校に戻れるよう、私ならできることは何でもする」とブランシャール氏は話す。レイモンド氏は、失われた時間を埋め合わせるために、子どもたちをサマースクールに送り込むことを考え始める時期かもしれないと指摘する。少なくとも教育者は、パンデミックが終息したら、学校教育をどう立て直すかを考え始める時期だと同氏は述べた。
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